今年より国外財産調書の提出が義務付けられたことを機に、税務当局は、調書の内容に関して、申告漏れとなっている所得税の調査とともに、共同名義の財産に対する認定贈与課税(形式ではなく、実質で贈与かどうかを判断して課税すること)の調査を積極的に進めていくのではないかと考えられます。
そこで、今回は、海外預金のうち、海外特有の預金形態であるJoint Accountについて、課税上の留意点と国外財産調書での取り扱いを、Q&A形式で解説させていただきます。
目次
Q.日本では馴染みがありませんが、そもそもJoint Accountとはなんですか?
「共同名義預金口座」、すなわち、1つの口座を複数の名義人で所有する形態の銀行口座のことです。一般的には、夫婦など親族で開設し、生活費をこの口座から引き出して使用する際に用いられています。
また、英米法系の国(アメリカ、イギリスなど)では、相続が発生すると、原則として、裁判手続き(プロベイド)を経て、遺産の確定、分配が行われますので、数年間、預金の引き出しができなくなってしまうケースも少なくありません。
Joint Accountの場合は、共同名義人の1人が亡くなった場合でも、裁判手続き(プロベイド)を経ずに他の名義人に口座が引き継がれるため、信託(トラスト)と並んで代表的なプロベイド回避策として活用されています。
Q.Joint Accountの課税上の留意点を教えてください。
課税上は、①共同名義者間における贈与認定、②Joint Accountに対する相続税の申告漏れ、について留意する必要があります。
①共同名義者間における贈与認定
海外預金の共同名義化には、日本と海外の双方において、贈与税が発生する可能性があることに注意する必要があります。
日本の税法では、共同名義にしただけで、直ちに「贈与」の認定を受けることはありません。しかし、例えば、夫婦の共同名義口座に夫が入金、それを原資に不動産を購入する場合、不動産の名義を妻の単独名義としたときや、夫婦の共同名義にしたときは、夫から妻への「贈与」の認定を受けることになりますので注意が必要です。
また、この場合、例えば、米国の税法では、銀行口座に資金を入金した夫が、自由に全額引き出せる状態であれば、夫婦の共同名義口座を開設した時点で贈与にならず、資金を入金していない妻が引き出した段階で贈与と判断されることになります。
贈与と認定されないためには、原則として、妻が、共同名義口座の資金の出し入れを行わないことが重要です。また、止むを得ず、引き出し又は支払いを行う場合には、その使途を明確に説明できる証拠を残して置くなど、口座の管理をきちんと行うことが、実は贈与ではないかとする税務当局の疑いを解消する意味で、重要になると思います。
②Joint Accountに対する相続税の申告漏れ
例えば、夫婦のJoint Accountへ資金を入金したのが夫のみの場合、相続の際には、その2分の1相当を夫の相続財産とするのではなく、その全額を相続財産として申告する必要があります。
日本でも「名義預金」の問題として知られるように、夫が妻や子供の名義の銀行口座を開設し、夫の資金を入金していた場合に、夫の相続の際に、夫名義でないからという理由で、相続財産として申告しないと、相続税の申告漏れとなるケースと同様です。
名義が違うので申告漏れが税務署に把握されることはないと考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、弊所のこれまでの税務調査立会の経験からしますと、相続税の税務調査の際には、100%近い確率で申告漏れが判明してしまいます。
理由としては、相続税の税務調査の際には、本人名義の口座をすべて名寄せし、最低でも過去5年~10年間の銀行口座を調べられるからです。
名義が違えば、当然、当初の調査では判明しませんが、口座の入出金の記録などから、多額の引き出しや振込等がないか入念にチェックされ、本人名義以外の口座があぶり出され、申告漏れが発覚することになります。
Q.Joint Accountの国外財産調書の作成上の留意点を教えてください。
Joint Accountの名義人ではなく、実質的に資金を提供している方の国外財産として報告する必要があります。資金を提供している方が複数いらっしゃる場合は、Joint Accountの残高を、資金提供額の割合で按分計算して、それぞれの方の国外財産として報告します。
仮に、今年(平成26年3月17日提出期限)の国外財産調書で、夫婦名義のJoint accountへの入金が、全額夫の資金であるにも関わらず、Joint accountなので夫の財産は2分の1相当として報告された場合は、残りの2分の1相当は配偶者への「贈与」ではないかという疑いを持たれることも考えられますので、早めに修正するなどの対応策を検討することをお勧めいたします。
また、Joint accountの利子所得の申告漏れがある場合は、今夏以降のお尋ねや税務調査が本格化する前に、自主的な修正申告(期限後申告)をお勧めいたします。
>>海外預金口座の利子所得の計算について、詳しくお知りになりたい方はこちらをご覧ください。
最近、日本の税務当局は、特に海外財産における共有名義に対し、贈与税や相続税の申告漏れの可能性が高いとして注意を払い始めていると思われますのでご留意ください。
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当コラムは2014年5月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。