相談者:Aさん
現在、海外在住で国籍は日本です。住民票は抜いています。今年(2015年)12月に日本に帰国する予定です。
Q. 日本では2016年1月からマイナンバー制度がスタートするとのことですが、いつ私に付番されますか?
マイナンバーは、平成27年10月5日時点で住民票に記載されている住民に番号が指定されます。Aさんは10月5日時点で日本に住民票がありませんので、帰国して住民票を作成したときに初めて個人番号を指定されることになります。
>>マイナンバーの海外居住者への影響は、こちらをご覧ください。
Q. 預貯金にもマイナンバーが付番されると聞きましたが、どのような影響がありますか?
まず預貯金へのマイナンバー付番の具体的なスケジュールは次のとおりです。
・2018年(平成30年)1月から預貯金者は任意でマイナンバーを告知
・2021年(平成33年)を目途に預貯金へのマイナンバーの登録義務化を検討
また、国税通則法の改正により、銀行などの金融機関は、預貯金情報をマイナンバーによって検索できる状態に管理するシステムを構築することが義務づけられました。
預貯金にマイナンバーが付番されることにより、税務署はマイナンバーを検索キーにした預貯金情報の照会が可能となります。具体的には、税務署は、名義預金(例:実質的にAさんの預金にもかからずお子さんの名義となっている預金)や遠隔地預金(例:Aさんの自宅から離れた銀行に持つ口座)の情報を効率的に集めることができるため、相続税などの税務調査で申告漏れが指摘される可能性が高くなると考えられます。
Q. 現地の金融機関でまとまった金額を運用をしています。帰国して日本居住者となった場合、税務上どのような点に気をつける必要がありますか?
日本居住者は、日本だけでなく海外の所得についても、原則として確定申告が必要となります。また、年末時点の国外財産が5,000万円を超える場合は、国外財産調書の提出が必要です。
Q. 海外資産の課税に対する日本の税務当局の取り組みを教えてください。
海外資産の申告漏れは税務当局の重点調査事項の1つで、次の取り組みにより情報収集がなされています。
① 国内の取り組み
・国外送金等調書
・国外財産調書
・国外証券移管等調書 など② 租税条約
・要請に基づく情報交換
・自発的情報交換
・自動的情報交換③ OECDの共通報告基準
特に、③OECDの共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)は、日本の税務当局がOECD加盟国から日本居住者に関する次の情報を入手することが可能となる取組みのため、今後の動向を注視する必要があります。
○個人情報
氏名、住所、生年月日、居住国、納税者番号「TIN(s) – Tax identification numbers」 、口座番号
○収入情報
利子、配当、株・社債の譲渡代金、国内送金、預金の入出金
○残高情報
預貯金残高、有価証券残高
(※) 生年月日と納税者番号は、現地国の法令で金融機関に登録が義務づけられていない場合は、報告の対象に含めなくてよいこととされています。
(※) 日本居住者の納税者番号はマイナンバーが用いられる予定です。
(※) 現時点では、不動産の譲渡代金や不動産の残高情報は報告の対象とはされていません。
出所:OECD Standard for Automatic Exchange of Financial Account Information in Tax Matters.(2014/7/21) など各種資料をもとに作成
2015年6月4日現在、CRS導入に署名した国は次の61の国・地域です。日本は、2018年(平成30年)年に初回の情報交換を行うことを予定しています(平成27年度税制改正大綱より)。
出所:SIGNATORIES OF THE MULTILATERAL COMPETENT AUTHORITY AGREEMENT AND INTENDED FIRST INFORMATION EXCHANGE DATE (Status as of 4 June 2015 )
CRSの導入によって、海外口座からの所得は、マイナンバーを検索キーとして所得税の確定申告書とCRSにより入手した海外口座情報を照合することで、容易に申告漏れを把握することができます。
また、国外財産についても同様に、相続税の申告書や毎年の国外財産調書とCRSにより入手した海外口座情報を照合することで、相続税などの過少申告を効率的に捕捉できることになります。
Q. 日本の税務当局の取り組み(特に海外資産)を踏まえて、どのような税務対策をとればよいですか?
「日本の税務当局は海外資産を把握できないだろう」 という見込みでの対応(無申告・過少申告)はリスクが高いと言わざるを得ません。税務当局が申告漏れの海外資産を把握して税務調査となった場合は、加算税の軽減・免除が受けられないだけでなく、最悪の場合は重加算税の対象となる可能性があるためです。また、いつ税務調査がくるかと考えながら過ごされるのも心理的なご負担が大きいものと思います。
したがいまして、税務当局に全ての財産が把握されることを前提として、合法的な(税務当局に説明可能な)税務対策を行うことが必要です。また、現時点で海外資産や海外所得の申告漏れがある場合は、自主的に申告することが経済的にも心理的にも合理的な選択であると考えます。
(2017年9月13日追記)
2018年9月にCRS(Common Reporting Standard:共通報告基準)による情報交換が予定されています。現状、税務署が居住者の国外財産の存在を把握する方法は、100万円超の海外送金の場合に銀行から提出される国外送金等調書が中心です。この情報交換が始まることより、税務署は海外送金がなくても国外財産の存在を把握することが可能となります。海外送金をしていない(する予定がない)ので、税務署には国外財産や国外所得を把握されることはない という考えはリスクが高いので対応について検討されることをおすすめいたします。
CRSの最新動向は、こちらのQ&Aをご覧ください。
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当コラムは2015年6月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。
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