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2018年9月に日本で初回のCRSによる情報交換が実施されました。国税庁が入手した日本居住者の海外口座情報に基づいて、実際にどのような税務調査が行われているか教えてください。

2019年事務年度(税務署の事務年度は7月から翌年6月です)は、CRSで入手した海外口座情報に基づく税務調査の実質的な初年度です。

2019年事務年度の海外資産の税務調査動向は下記コラムをご覧ください。

CRSに基づく海外資産の税務調査動向

CRSに基づく海外資産の税務調査動向を踏まえて、どのように対応すべきか教えてください。

無申告の海外資産がある方は税務調査となるのは時間の問題と捉えて、自主的に申告されることをおすすめいたします。

香港、シンガポール、BVIなどオフショア法人の海外口座も、Beneficiary ownerが日本居住者の場合は、Relationship managerなど銀行担当者のアドバイスや、Nomineeの有無、銀行からの税務上の居住地の確認の有無に関わらず、CRSの情報交換の対象になっているものと想定して行動することをおすすめします。

また、台湾は2020年9月に日本との初回の情報交換を予定しており、実質的な税務調査の開始は2021年7月以降と考えられますが、台湾に無申告の財産がある方は、申告漏れ状態ですので、早めに自主申告されることをおすすめします。

2018年秋から日本と外国との間で金融機関の口座情報の交換が始まると聞きました。内容を教えてください。

情報交換の正式名称は、CRS(Common Reporting Standard:共通報告基準)といいます。CRSは、金融機関に非居住者の口座がある場合、その金融機関が税務当局を通じて、非居住者が住む国の税務当局に、その口座情報を共通の基準で報告する仕組みです。日本は2018年9月に初回の情報交換を予定しています。以降毎年9月に情報交換を行う予定です。

CRSによる情報交換の具体的な影響を教えてください。

例えば、日本居住者が海外の銀行に定期預金1億円を持っているとします。この場合、海外の銀行が現地の税務当局に、個人情報(氏名、住所等)、収入情報(利子の年間受取総額)、残高情報(口座残高)を報告し、これらの情報が現地の税務当局から国税庁に提供されることになります。

国税庁はこれらの入手した情報と申告書を照らして、所得や相続財産の申告漏れがある場合は、税務調査等を行うことを予定しています。

なお、日本は2018年9月に初回の情報交換を行う予定ですので、税務調査等が本格化するのは、税務署での情報精査が完了する2019年以降かと思います。

2018年9月の初回の情報交換、2019年9月の2回目の情報交換で国税庁に提供されるのは、どのような口座が対象ですか?

<2018年9月の初回の情報交換>
日本居住者が海外の金融機関に保有する口座のうち、原則として、次の①②についての2017年分の収入情報と残高情報
・2016年12月末の口座残高が100万㌦超の個人口座
・2017年1月1日以降に新規開設した個人・法人口座

<2019年9月の2回目の情報交換>
日本居住者が海外の金融機関に保有する口座のうち、原則として、次の①②についての2018年分の収入情報と残高情報
・2016年12月末の口座残高が100万㌦以下の個人口座(※)
・法人口座(※)

(※)海外の金融機関が居住地国の特定を完了している場合には初回の2018年9月から情報交換が行われることになります。

海外金融機関の口座残高が少額の場合でも、情報交換の対象になるのですか?

次の口座は情報交換の対象外です。
①個人の休眠口座(2017年1月1日以前3年以内に払い出しなどの取引がなく、口座残高が1,000㌦以下などの要件を満たす口座)
②2016年12月末時点の口座残高が25万㌦以下の法人口座

②に該当する法人口座は、2017年以後の毎年末において口座残高が25万㌦以下であれば以降の情報交換の対象外です。

なお、2017年1月1日以降に新規開設する口座は、個人・法人ともに金額基準がなく、全ての口座が情報交換の対象となります。

CRSによる情報交換の対象国を教えてください。

日本に先行して、2017年9月からフランス、ドイツ、英国など欧州諸国や、英領ケイマン諸島、英領マン島、英領バージン諸島(BVI)など一部のタックス・ヘイヴン(租税回避地)は情報交換を開始します。

2018年9月からは日本やスイス、香港、シンガポール、中国、マレーシア、オーストラリアなどが初回の情報交換を予定しています。

BVIなどのタックス・ヘイヴンや香港、シンガポール、スイスは、情報の匿名性を確保する国策によって投資を呼び込んできましたが、こうした国・地域もCRSへの参加を表明しています。

なお、米国はすでに独自に同様の制度(FATCA:Foreign Account Tax Compliance Act)を整えているため、CRSには参加していません。

CRSによる情報交換の参加署名国は、次のリンクを参照してください。

SIGNATORIES OF THE MULTILATERAL COMPETENT AUTHORITY AGREEMENT ON AUTOMATIC EXCHANGE OF FINANCIAL ACCOUNT INFORMATION AND INTENDED FIRST INFORMATION EXCHANGE DATE(Status as of 30 August 2017)
https://www.oecd.org/ctp/exchange-of-tax-information/MCAA-Signatories.pdf

国税庁に提供される情報の内容を教えてください。

毎年9月末に前年分の次の情報が、海外の税務当局から国税庁に提供されます。

▽個人情報 氏名、住所、生年月日、居住地国、納税者番号(マイナンバー)、口座番号
▽収入情報 利子、配当、株・社債の譲渡代金などの年間受取総額
▽残高情報 預貯金残高、有価証券残高などの口座残高

日本では、預貯金へのマイナンバーの付番が2018年1月から任意で始まる予定ですが、これに先んじて海外の金融機関では納税者番号(TIN:Tax Identification Number) としてマイナンバーの確認がされることになります。

今年(2017年)に入って、海外の金融機関からマイナンバーの提出を求めるレター等が届いているようです。提出しない場合は口座の強制的な閉鎖などの措置が取られることもあるようですので、対応については慎重にご検討ください。

金融機関が、口座保有者が非居住者かどうかを確認する流れを教えてください。

CRSの取り組みは、2017年1月1日から始まっており、同日以後の口座開設は口座開設者が金融機関に提出する届出書で居住地国が特定されます。

また、同日以前(2016年12月31日以前)に開設した既存口座は、金融機関が口座保有者の居住地国を特定します。この場合、口座保有者が個人か法人か、個人の場合は契約金額が1億円超か1億円以下によって、居住地国を特定する手法が異なっています。

なお、法人の場合、資産運用のためのペーパー・カンパニーなどは、その実質的支配者について居住地国を特定されることになります。

既存口座について、金融機関が居住地国を特定する期限は、情報交換の予定日に対応して次のとおりです。

◎個人口座 ・2016年12月31日の口座残高が1億円以下の場合 2018年12月31日
・2016年12月31日の口座残高が1億円超の場合  2017年12月31日
◎法人口座 ・2018年12月31日

金融機関が法人の実質的支配者の居住地国を特定する流れを教えてください。

Step1:法人口座の2016年12月末以降の毎年末残高が25万㌦以下かどうか
・毎年末残高が25万㌦以下の場合、CRSの情報交換の対象外ですので、実質的支配者の居住地国の特定プロセスには進みません。

Step2:法人が特定法人に該当するかどうか
・上場会社やそのグループ会社、公共法人等は特定法人に該当しません。
・投資関連所得/総収入金額の割合、または、投資関連所得の基となる資産/総資産の割合のどちらかが50%以上の法人(Passive Entity)は、特定法人に該当し、実質的支配者の居住地国の特定が行われて、居住地国の税務当局に法人口座の情報が提供されます。

Step3:法人口座の残高が1億円超かどうか
・口座残高が1億円超の場合、金融機関から口座保有者に対して実質的支配者の居住地国を届け出るよう連絡があります。届け出をしない場合、金融機関が保有する情報にて居住地国を特定されます。
・口座残高が1億円以下の場合、金融機関が保有する情報にて居住地国を特定されます。

法人の実質的支配者はどのような人が該当しますか?

原則として、法人の議決権の25%超を保有する自然人をいいます、ただし、明らかに名義株主の場合や、他の自然人が議決権の50%超を保有している場合は該当しません。

具体的には、Passive EntityのControlling PersonであるBeneficiary Ownerが実質的支配者に該当します。なお、Beneficiary Ownerが特定できない場合や、株主全員の議決権が25%以下の場合は、法人取締役が実質的支配者に該当し、居住地国が特定されることになると考えられます。

法人の実質的支配者の特定に関して、具体的にどのような影響が想定されますか?

例えば、日本居住者がBVIなどオフショア地域に法人を設立し、香港やシンガポールなどで法人口座を開設して資産運用をしている場合、この法人口座情報が国税庁に提供されることになります。

なお、日本居住者がオーナーのオフショア法人の利益は、タックス・ヘイヴン税制が適用されて、個人の雑所得として申告納税する必要がありますのでご注意ください。

海外銀行口座を閉鎖した場合、閉鎖した年の情報は情報交換の対象になりますか?

はい、口座を閉鎖した事実などが情報交換の対象になります。

海外銀行口座からの国外送金/国内送金は、情報交換の対象になりますか?

日々の送金に関する情報(送金日、送金先口座、送金額等)は情報交換の対象ではないことを確認しています。

口座を保有する海外金融機関からマイナンバーの提出を求めるレターが届きました。これは、どのような背景で送られてきたのでしょうか?

2018年9月から本格的に始まるCRS(Common Reporting Standard:共通報告基準)に向けて、各国の金融機関が口座保有者の居住地国の確認をしています。海外金融機関は、口座保有者が日本居住者であることを確認した場合、納税者番号(TIN:Tax Identification Number) としてマイナンバーの提出を求めます。このレターは、このような背景で送られています。

そして、CRSによる情報交換により、日本居住者の海外口座情報(マイナンバーなど個人情報、収入情報、財産情報)が国税庁に提供されることになります。

日本の銀行にはマイナンバーの提示をしていません。海外の金融機関にマイナンバーを提示することは不安なのですが、提示しない場合はどのような事態が想定されますか?

金融機関によっては、利用制限や口座閉鎖など強制的な措置が取られることがあるようです。万一、口座閉鎖となった場合に日本へ送金となると、100万円超の送金は、着金する日本の金融機関が税務署に送金内容を連絡しますの、税務署に海外資産があった事実を把握されることになります。

海外口座にある資産はこれまで申告していませんでした。どのように対応すればよろしいでしょうか?

税務調査が入る前に、自主的に過去分の修正(期限後)申告、および、国外財産調書(年末時点の海外資産が5,000万円超の場合)を提出することをおすすめします。

国税庁は、CRSに不参加の米国資産の情報をどのようにして捕捉しているのですか?

現行の自動的情報交換にて、外国税務当局から国税庁に提供される情報の大半は米国のものと言われています。なお、平成28事務年度に国税庁に提供された情報は、205,000件です。

提供される情報は、米国で発生した利子・配当・株式譲渡対価・不動産収入などのうち、日本居住者に支払われたもの です。国税庁はこれらの情報と申告内容を照らして、申告漏れが確認できた場合に税務調査を行っています。

また、2018年1月1日以降、Form W-8 BENへマイナンバーの記載が必須となりましたので、今後はマイナンバー付の情報が国税庁に提供されることが予想されます。

個人名義で海外口座を保有しています。税務上の居住国はどのようにして特定されるのですか?

その口座がある国の国内法に従って特定されるため、詳細は現地法令を確認する必要があります。 ただ、各国の国内方法はOECDのガイドラインに則って規定されているため、以下のOECDのガイドライン上の取扱いが参考になるかと思います。

・低額口座(口座残高が100万ドル以下)

パスポート等の公的証明書により確認される現住所の記録、または、金融機関の顧客DBの検索により特定

・高額口座(口座残高が100万ドル超)

金融機関の顧客DBおよび紙媒体資料の検索、並びに、金融機関の顧客担当者からのヒアリングにより特定

海外口座の残高が100万ドル超のため高額口座に該当し、2018年9月に国税庁に情報提供されるものと理解しています。海外金融機関から税務上の居住地を確認するレターは届いていませんが、本当に情報提供されるのでしょうか?

特定手続は現地法令に従って行われ、また、金融機関毎に対応も異なるので、レターが届かないことをもって情報提供されない と想定されるのは安全ではないと思います。

申告漏れの海外資産や所得がある場合は、自主的に申告されることをお勧めいたします。

海外の仮想通貨取引口座は、情報交換の対象ですか?

仮想通貨の取引口座は、CRSに基づく自動的情報交換の対象外とのことです。ただし、要請に基づく情報交換にて、海外の税務当局から情報提供される可能性がありますのでご留意ください。

報道によると、2018年9月のCRSによる情報交換で、国税庁は日本人の口座情報約40万件を入手したとのことですが、どのように分析されますか?

2018年9月の情報交換で国税庁が入手する情報は、下記口座が対象と予定されていました。

・2016年12月末の口座残高が100万ドル超の個人口座
・2017年1月1日以降に新規開設した個人/法人口座

これら以外の口座についても、海外の金融機関が口座保有者の居住地国の特定を完了している場合には、(2019年9月ではなく)2018年9月に秋情報交換が行われることになります。
例えば、2016年12月末の口座残高が100万ドル以下の個人口座 です。

約40万件という数字からすると、一定数の100万ドル以下の個人口座の情報が提供されている可能性があると考えます。

今後、税務署は入手した情報と、過去の申告書及び国外財産調書の突合を行い、申告漏れを把握したときは、積極的に税務調査を実施して課税を行うものと考えます。

CRSによる情報交換の実施を受けて、海外資産や海外所得の申告漏れがある場合はどのように対応するのがよいですか?

税務調査となる前に自主的に申告を行うことをおすすめいたします。
詳細は、下記コラムを参考にしてください。

CRS導入を受けて海外資産の申告対応はどうすべきか?

OECDから投資永住権を使ったCRS回避策について懸念が表明されたとのことですが、具体的に教えてください。

CRSは非居住者の金融口座情報を、口座保有者の税務上の居住国に提供することを目的としています。

OECDは、口座開設または居住国の確認の際に、投資永住権を保有する国を税務上の居住国として申請し、本当の居住国に情報提供されることを回避する動きを懸念しています。そのため、濫用が懸念される投資永住権のリストを公表し、金融機関に対して、CRSの確認プロセスにおいて、投資永住権での申請がなされた場合、当該国での滞在期間や納税履歴など追加的な確認を求めています。

日本の方によく知られているマレーシアのMM2H(Malaysia My Second Home Programme)もリストアップされていますので、ご留意ください。

参考:Residence/Citizenship by investment schemes
http://www.oecd.org/tax/automatic-exchange/crs-implementation-and-assistance/residence-citizenship-by-investment/

2019年6月開催のG20で出された「税目的の透明性と情報交換に関する声明」はどのような内容ですか?

G20の財務大臣・中央銀行総裁が、税に関する透明性と情報交換にコミットすること を確認しました。
具体的には、全ての国に対して、非居住者に係る金融口座情報を、共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)を用いて、税務当局間で自動的に交換する仕組みを採用するよう要請すること を確認しています。

詳細は、下記をご確認ください。

税目的の透明性と情報交換に関するG20声明のポイント
https://www.mof.go.jp/international_policy/convention/g20/g20_161121_statement_on_transparency_and_exchange_of_information_for_tax_purposes.htm

2019年11月4日付日本経済新聞「海外資産の税逃れ防止へ 取引記録の保管要請」とのことですが、税制改正の背景や国税当局の狙いを教えてください。

背景は、海外資産の税務調査での実効性を高めるため、簡単に言うと、税務調査での追徴税額を増やすため と思います。

2018年9月からCRS(共通報告基準)に基づく情報交換が始まり、日本居住者の海外口座情報が国税庁に提供されましたが、下記の限界がありましたので、それぞれに対応すべく、本措置が検討されているものと考えます。

①口座入出金は情報交換の対象外
→口座入出金から相続、贈与、他口座や他財産の存在、仮装隠蔽意図などを把握したい。

②口座がCloseされた場合、Closeの事実のみが情報交換の対象(収入・残高は情報交換の対象外)
→Closeされた口座の過去Statmentの取得は実務上困難であるため、本措置にて課税の根拠資料を確保したい。

③海外不動産は情報交換の対処外
→海外不動産業者における過去分の取引情報の保管状況や、情報依頼時の対応は様々であるため、本措置にて課税の根拠資料を確保したい。

また、税務調査において納税者が海外資産の情報提供に協力的でない、または、実際に資料がない場合、税務署は対象国の税務当局に情報提供の要請を行いますが、適切な資料が提供されるかは相手国次第ですし、時間がかかるという背景も本措置導入検討の一因かと思います。