相談者:Aさん
現在、米国子会社に出向しております。米国赴任中に日本国内の株式を譲渡したいのですが、どのような場合に日本で課税になるのですか?
企業にお勤めの方が1年以上の予定で海外子会社などに転勤すると日本国内に住所がなくなりますので、一般的には「非居住者」となります。「非居住者」の場合、日本で課税を受けるのは、日本国内で発生した所得のみです。なお、企業にお勤めの方は、一般的に日本国内に恒久的施設(事業活動の拠点)を持たない非居住者に該当しますので、この前提で回答させて頂きます。
企業にお勤めの方が、海外赴任中に株式を譲渡した場合、次の①~⑥のいずれかに該当する所得が、日本国内で発生した所得として日本で課税を受けます。
①買占めによる株式の譲渡
②事業類似譲渡となる株式の譲渡…例:同族会社の株式の譲渡
③不動産関連法人の株式の譲渡…実質的には不動産の譲渡だから
④税制適格ストックオプションの権利行使により取得した株式の譲渡
⑤海外赴任者が一時帰国時に行う株式の譲渡
⑥日本国内にあるゴルフ場のゴルフ会員権(株式形態)の譲渡
①~⑤に該当するものは所得税15.315%の税率による申告分離課税、⑥に該当するものは総合課税の対象となって確定申告が必要です。
なお、①~⑥に該当する場合であっても、日本と赴任国と間で締結された租税条約によって日本で課税されないことがありますので、租税条約の確認が必要です。
Aさんの場合、赴任国が米国ですので日米租税条約を確認してみます。日米租税条約では、日本国内で発生した所得として日本で課税を受ける株式の譲渡は、
③不動産関連法人(不動産割合50%以上)の株式の譲渡
④税制適格ストックオプションの権利行使により取得した株式の譲渡
とされています。したがいまして、Aさんの売却予定の株式がこれらに該当しない場合は、日本で課税を受けないことになります。
相談者:Bさん
現在、海外子会社に出向しております。日本で付与されたストックオプションを海外赴任中に行使した場合、日本で課税を受けることになりますか?
ストックオプションによって得られる経済的利益に対する課税のタイミングは、①付与時②行使時③行使によって得た株式の売却時の3つの時点があります。
日本の所得税法では、原則として、次の課税がなされることになります。
①付与時…課税しない
②行使時…給与所得として課税
③売却時…譲渡所得として課税
ここで、ストックオプションの①付与時に一定の要件を満たしている場合(満たす場合は「適格ストックオプション」、満たさない場合は「非適格ストックオプション」)には、②行使時に課税はなく、③売却時に譲渡所得課税が行われます。したがって、適格ストックオプションは、①付与時から③売却時まで給与所得(累進税率)課税を受けず、③売却時の譲渡所得課税(所得税15.315%+住民税5%)のみですので、税制上優遇されているといえます。
では日本で①付与されて、海外赴任中に②行使そして③売却した場合の課税関係を説明いたします。
適格ストックオプションの場合は、海外赴任中の②行使時の課税はありませんが、③売却時に譲渡所得が課税されることになります。相談者Aさんへの回答の「④税制適格ストックオプションの権利行使により取得した株式の譲渡」は、この場合に該当します。
非適格ストックオプションの場合、海外赴任中に②行使を行ったときは、役員以外の社員は国内勤務期間に対応する部分が国内源泉所得として、日本で給与所得として課税を受けます。役員の場合は、受ける報酬が全て国内で発生した所得となりますで、②行使によって得た経済的利益の全額に対して日本で給与所得として課税を受けます。
しかしながら、社員・役員ともに海外赴任中に③譲渡したときは、原則として日本で課税を受けることはありません(赴任国での課税を受けることになります)。
以上をまとめると次のとおりとなります。
海外赴任中に日本で付与されたストックオプションを行使し、行使によって得た株式を売却した場合の日本の課税関係
■適格ストックオプション
①付与時…課税なし
②行使時…課税なし
③売却時…譲渡所得として課税(所得税15.315%のみ)■非適格ストックオプション
①付与時…課税なし
②行使時…給与所得として課税(役員は行使益の全額、社員は行使益のうち国内勤務期間に対応する部分)
③売却時…課税なし
なお、日本と赴任国と間で締結された租税条約によっては、日本で全く課税されないことがありますので、租税条約の確認が必要となりますことをご留意ください。
海外赴任中の方で日本で付与されたストックオプションを2014年中に行使、または、行使によって得た株式を売却された場合は、基本的に、ストックオプションの適格・非適格に応じて、2015年3月16日(月)までに2014年分の確定申告を行う必要がありますのでご注意ください。
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当コラムは2015年2月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。
記事拝見しました。
SOの付与時は課税されないというのは所得税法87からきているのだと思いますが、
出国税の対象となる有価証券は、所得税で規定する有価証券で広範囲です、
そのなかにはデリバテイブも含んでいてコールの買いもふくんでいます。
それでも付与時は課税しないという条文はそのまま生かされると断定していいのでしょか。。
コメントありがとうございます。
まず本記事は2015年2月現在の税制に基づいて作成したもので、
国外転出時課税(出国税)については考慮されていない点、ご了承ください。
ストック・オプションの付与時課税なしの根拠条文は、
非適格の場合は所得税法施行令第84条、
適格の場合は租税特別措置法第29条の2、租税特別措置法施行令第19条の3 となります。
ご指摘いただいたとおり、ストック・オプションは権利行使期間の到来の有無にかかわらず、
「有価証券」に該当しますので、付与されて権利行使期間の到来していないストック・オプションについても
出国税の要件を満たしている場合は、出国税課税を受けるものと考えられます。
なお、出国税課税を受けない場合は、条文どおり付与時の課税はございません。
以上、ご参考にしていただければ幸いです。
質問です。
非適格の場合、役員か役員以外の社員かによって場合分けされていますが、それは①付与時、②行使時、③売却時のうちどの時点での立場と考えればよいのでしょうか?
私は①付与時では非居住者役員、②行使時と③売却時は非居住者かつ役員を退任し会社から離れているというというケースを調べています。
コメントをいただき、ありがとうございます。
本コラムの相談者:Bさんの非適格ストックオプションの課税関係については
①付与時は日本居住者、②行使時および③売却時は日本非居住者 のケースを想定して記載しております。
「①付与時では非居住者役員、②行使時と③売却時は非居住者かつ役員を退任し会社から離れている」のケースですが、
役員報酬は、基本的に、その役員報酬を支払った法人の居住地国が第一次課税権を持ちますので、
日本企業であれば、行使益について日本で確定申告が必要になるかと存じます。
なお、日本と居住地国との租税条約の定めによっては、課税関係の結論が異なる可能性がありますことを、
ご留意いただければと思います。