今年から導入された国外財産調書制度は、年末時点で、個人所有の国外財産が5,000万円を超える場合に、その国外財産を報告することとされています。一部では、報告義務を免れるため、また、申告漏れがある国外財産を報告の対象から外すために、個人名義の国外財産を、海外で設立した法人などに名義変更する動きがあったようです。
そこで、今回は、個人名義以外で所有する海外不動産について、その国外財産調書の考え方をQ&A形式で解説させていただきます。
目次
Q.米国での不動産投資を検討しています。不動産の投資形態は、個人名義以外にどのようなものがありますか?
米国の代表的な投資形態として、株式会社、パートナーシップ、LLC(Limited Liability Company)を挙げることができます。株式会社は、日本でも御馴染みの形態かと思いますので、パートナーシップとLLCについて解説いたします。
パートナーシップ
パートナーシップは、基本的にすべての州が採択している、統一パートナーシップ法(Uniform Partnership Act : UPA )により、「2人以上の者により共有されている営利を目的とした事業遂行の団体」として定義づけられています。
1つ目の特徴として、パートナーは無限責任を負うことが挙げられます(株式会社の場合、株主は出資額を限度とする有限責任を負います)。したがって、パートナーシップが多額の負債を返済できなくなった場合は、パートナーは個人の財産を処分してでも返済しなければなりません。
なお、パートナーシップには、ゼネラル・パートナーシップ(General Partnership : GPS)とリミテッド・パートナーシップ(Limited Partnership : LPS)の2つの形態があります。
GPSは、パートナー全員が経営を担い、また、無限責任を負うゼネラル・パートナーから構成されている、基本的な形態のパートナーシップです。これに対して、LPSは、1名以上の経営を担い無限責任を負うゼネラル・パートナーと、1名以上のリミテッド・パートナーから構成されているパートナーシップです。リミテッド・パートナーは、原則として経営に参画せず、責任は有限であるため、株式会社の株主に類似する立場と言えます。
このリミテッド・パートナーの特徴により、不動産投資の際には、専らLPSが採用されています。
2つ目の特徴として、米国の税務上、パートナーシップ自体には課税されず、パートナー自身が個々の立場で課税、つまり、パートナーシップで獲得した所得と他の所得を相殺できること(これを「損益通算」といいます)が挙げられます。通常、不動産投資は、投資初期に多額の減価償却費と、借入をしている場合には支払利息が発生します。したがって、投資初期は損失を先行して計上することなり、損益通算ができることにより節税が可能となります。
なお、注意点として、日本居住者がLPSを通じて米国不動産に投資をした場合、投資損失を損益通算できるか否かが、日本の税務上、最終的に確定していない ことが挙げられます。現在、デラウエア州で設立されたLPSを用いた不動産投資スキームについて、複数の投資家と国税庁が裁判で争っており(地裁では投資家の二勝一敗、高裁では投資家の一勝二敗)、今後の最高裁の判断を注視する必要があります。
LLC(Limited Liability Company)
LLCは、各州の有限責任法により設立される形態で、特徴として、株式会社とパートナーシップの両方の特徴を兼ね備えていることが挙げられます。すなわち、LLCは、株式会社と同様に、法人格を持ち、すべての出資者は有限責任となります。さらに、米国の税法上、パートナーシップと同様に、LLC自体に課税せず出資者に課税する(結果として損益通算できる)税務上の取扱いを選ぶことが認められています。
なお、LPSと同様、LLCについても、日本の税務上の取扱いについて注意する必要があります。日本の税務上は、米国にてLLC自体に課税せず出資者に課税することを選択していたとしても、法人格を有する以上、原則として、LLCは外国法人として取り扱い、損益通算は認めない としています。実務上は、LLCは、全米各州の法律により成立が認められることになりますので、各州の法律の規定に基づいて、損益通算の可否を個別に判断することになります。
>>海外不動産の申告方法について、詳しくお知りになりたい方はこちらをご覧ください。
Q.米国でLLCを出資金4,000万円で設立し(出資者は1人)、さらに、LLC名義で3,000万円の借入をして、7,000万円の不動産をLLC名義で購入した場合、国外財産調書の提出は必要でしょうか?
法令上は明確な規定がありませんが、念のため提出することをお勧めいたします。
LLCは法人格があるので、国外財産はLLCへの出資額4,000万円と捉え、5,000万円を超えていないため、国外財産調書の提出は不要とも考えられます。しかし、LLCの出資者が1人であるならば、LLC名義の借入金は、その出資者の返済能力に基づいて実行されたと考えるのが妥当です。したがって、不動産がLLC名義であったとしても、出資者の国外財産は不動産7,000万円として、国外財産調書にて報告することをお勧めいたします。
なお、この質問と同様の投資をパートナーシップで行った場合、パートナーシップは原則として法人格が無いため、個人で不動産を所有しているのと同様であり、国外財産調書の提出が必要となります。仮に、出資者が複数の場合は、不動産を出資者全員で共有していることになりますので、持分相当額が5,000万円を超えている否かで、国外財産調書の提出の要否を判断することになります。
>>今年(2014年3月17日提出期限分)の国外財産調書を提出されていない場合の対応は、こちらをご覧ください。
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当コラムは2014年6月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。