事例:
米国人の夫と結婚して3年前から夫婦で日本に住んでいます。今年(平成26年)、夫の父親(米国人)の相続が発生しました。父親は亡くなるまで米国に住んでおり、日本には年に1回、孫に会いに来ていました。相続財産は米国にある不動産1億円と預金1億円です。母親は既に他界しており、夫の兄弟は2人おり、2人とも米国に住んでいます。
夫は米国にある預金5,000万円を取得しました。
Q1.そもそも米国人の夫が、米国人の父親から米国にある財産を相続で取得した場合、日本の相続税の納税義務はあるのですか?
A1.御主人が、父親の相続開始時に日本に住んでいるため、御主人が取得した財産は日本にあるものだけでなく海外にあるものについても、日本の相続税の対象となります。
日本の相続税では、被相続人(亡くなった方)と相続人(相続する方)のいずれかが相続開始時に日本に住所がある場合、国籍や日本の居住期間は関係なく、相続人が取得した全世界財産について課税の対象となります。
日本居住の外国籍の方の所得税の取扱いと混同されて、日本居住期間が5年以下なので海外にある財産に相続税はかからないと誤解されている方がいらっしゃいますが、相続税の対象となるかどうかの判断に、日本での居住期間は考慮されませんのでご注意ください。
なお、外国籍の方の所得税は、日本居住期間が過去10年間のうち5年以下の場合は、「非永住者」として国内で発生した所得と、国外で発生した所得のうち国内で支払われたり、国内へ送金したもののみが課税の対象となります。
したがって、御主人の場合、日本居住期間が3年ですので、仮に米国に賃貸不動産をお待ちの場合は、その賃貸収入を日本へ送金しない限りは、日本の所得税の対象とはなりません。
Q2.米国人の夫の兄弟にも日本の相続税の納税義務はありますか?
A2.御主人の兄弟と父親の両方が相続開始時に日本に住んでおらず、また、相続財産が米国にある財産なので、御主人の兄弟が取得した財産は、原則として日本の相続税の対象とはなりません。
仮に、相続財産が日本にある財産の場合、たとえ御主人の兄弟と父親の両方が相続開始時に日本に住んでいないとしても、日本にある財産は相続税の対象となります。
Q3.相続財産の総額が2億円と大きく基礎控除額を超えていると思うのですが、相続税額はいくらになりますか?
A3.国際相続の場合、亡くなった方の財産総額ではなく、日本の相続税の対象となる方(御主人)が取得した相続財産から基礎控除額を差し引いて日本の相続税を計算します。したがって、相続財産の課税価格は総額の2億円ではなく、御主人が取得した米国にある預金5,000万円となります。
この課税価格から差し引く基礎控除額は、5,000万円+1,000万×法定相続人の人数で計算します。法定相続人は日本の民法に基づくので、御主人含めて3人となり基礎控除額は8,000万円となります。A2で解説した、日本で相続税の納税義務がない方(御主人の兄弟2人)も、法定相続人として基礎控除の計算に含めることができますのでご留意ください。
以上より、相続税の課税価格が基礎控除よりも小さくなるため、御主人は日本で相続税の申告納税義務が生じないことになります。
なお、仮に父親の相続が平成27年1月1日以降にあった場合は、法改正により、基礎控除額の計算が3,000万円+600万円×3人=4,800万円となります。この場合、相続税の課税価格が基礎控除よりも大きくなるため、御主人は相続税の申告納税を行う必要があります。
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当コラムは2014年9月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。