10年以上前に死亡した父からスイスの番号口座(Numbers Account)とフィデューシャリー口座(Fiduciary Account)を引き継ぎました。両預金とも相続税の申告をせず、そのままにしていました。また、これらの口座から配当などの所得が発生していましたが確定申告していませんでした。
来年(2015年)のマイホーム購入資金に充てるため、この口座の資金を日本に送金することを検討していますが、過去分の納税やペナルティが心配です。どのように対応すればよろしいでしょうか?また国外財産調書は提出する必要がありますか?
1.過去分の納税やペナルティへの対応
(1)相続税
本来であれば相続時に国外預金口座の残高を確認のうえ申告する必要がありましたが、相続税の時効7年を経過していますので、改めて申告納付する必要はありません。
(2)所得税
所得税の時効はいわゆる脱税に該当する場合は7年ですが、通常は5年となります。実務的には過去に確定申告をされている場合は3年分(平成23年~平成25年分)の修正申告、確定申告をされていない場合は5年分(平成21年~平成25年分)の期限後申告をすることで、過去の所得の申告漏れをクリアにすることができます。
なお、海外から日本へ100万円超を超える送金する場合、金融機関から税務署に支払調書が提出されるため、この支払調書に基づいて税務署は「国外送金等のお尋ね」と呼ばれる文書を送付したり、文書を送付することなく税務調査を行うことがあります。
税務調査後にこれらの申告をした場合は、過少申告加算税などのペナルティが加重されたり、場合によっては重加算税の対象となってしまうこともありますので、日本に送金される前に自主的に申告することをお勧めいたします。
2.国外財産調書の提出
国外財産調書は、年末時点の国外財産が5,000万円を超える場合に提出する必要があります。したがって、相続税申告の際に相続財産として申告していなかった国外財産についても、残高を確認のうえ国外財産調書を提出する必要があります。
また、フィデューシャリー口座(Fiduciary Account)(注)は、名義上はプライベートバンクのものですが、受益者はあくまで資金を拠出した顧客ですので、その残高が5,000万円超の場合、国外財産調書の提出が必要となります。
(注)海外のプライベートバンクで一般的な元本保証型の金融商品で、顧客の資金を信託の形で預かりその資金を銀行名義で他の銀行に預金したり貸付けをしたりしてその運用益を顧客に分配する仕組みのいわゆる特定金銭信託
平成26年分(2014年分)からは、国外財産調書の未提出や虚偽記載について、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されることになりますのでご留意ください。
なお、自主的な修正申告とあわせて国外財産調書を提出した場合は、提出期限内に提出したものとみなされてペナルティの軽減措置を受けることができますので、提出期限を既に経過している平成25年分(2013年分)についても提出されることをお勧めいたします。
3.国税庁の動向
今年は国外財産調書制度の導入初年度であるため、制度の周知期間として未提出の場合でもペナルティが課されることはありませんでした。そのため、国税庁の発表によると提出件数は約5,500件に留まり、各種の統計からすると多くの方が様子見などで提出を見合わされたものと考えられます。
今年の提出状況を受けて、国税庁としても国外財産調書制度の周知を図り、提出件数を増やして国外財産からの課税漏れを取り締まるべく、「国外送金等のお尋ね」にて注意喚起したり、新たに「国外財産調書の提出について」という標題の文書を送付しています。
「国外財産調書の提出について」は、金融機関から提出された海外送金の支払調書などに基づいて、国外財産を現在保有している又は過去保有していた方に送付されています。昨年までは、「国外送金等のお尋ね」にて、海外送金取引の内容を確認することで国外財産からの課税漏れを把握することが一般的でしたが、今年はこれに代えて「国外財産調書の提出について」を送付しているようです。
「国外財産調書の提出について」のポイントは、年末時点の国外財産が5,000万円以下で国外財産調書の提出義務がない場合にも、国外財産の保有状況を記載し提出義務がないことの回答を求めている点です。この文書は行政指導の位置付けですので、回答するかどうかは任意です。しかしながら、税務署が持っている国外財産(又は海外送金)の情報に基づいてこの文書が送付されていますので、不用意に回答することなく、十分確認のうえ回答することをお勧めいたします。
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当コラムは2014年10月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。