オフショア法人の国外財産調書対応をズバリ解説!

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相談者:Aさん
英領ヴァージン諸島(BVI)に100%出資で法人を設立し、ノミニー制度を利用して法人名義でシンガポールの金融資産を運用しています。

昨年(平成26年)10月にBVIと日本との租税情報交換協定が発効し、また、今年から国外財産調書の未提出・虚偽記載について刑事罰が導入されることに伴って、どのようなリスクがあるかを把握したいと思います。

なお、これまでシンガポールの金融資産の運用収益は日本では申告していません。

回答:
(1)ノミニー制度の利用
ノミニー(Nominee)制度とは、真の株主の情報を守るため、実質の株主が表面上はわからないように名目上の株主を置くことをいいます。BVIや香港などでは合法的な制度ですので、ノミニー制度の利用については問題ありません。

(2)国外財産調書
国外財産調書は、日本居住者(個人)が年末時点に国外財産を5,000万円超保有する場合のその国外財産が申告対象となります。したがって、海外法人名義で所有している国外財産は申告対象とはなりません。

Aさんの場合、ノミニー制度を利用しているため名目的にはBVI法人の株主ではありませんが、実質的な株主ですのでBVI法人の株式を国外財産として申告する必要があります。

海外法人株式(非上場)の国外財産調書での評価方法は、国外財産調書関係通達5-8(5)により、次のとおり定められています。

イ.その年の12月31日における売買実例価額のうち、適正と認められる売買実例価額
ロ.イがない場合には、その年の翌年1月1日から国外財産調書の提出期限までにその財産を譲渡した場合における譲渡価額
ハ.イ及びロがない場合には、取得価額

BVIなどのオフショア地域に設立した法人については、売買実例価額の入手が困難で、通常は継続保有を前提とした運営がなされますので、通達上は取得価額、つまり、出資額で評価すればよいことになります。しかしながら、国外財産調書制度の趣旨(国際的な課税逃れの防止)や虚偽記載認定のリスクを勘案しますと、オフショア法人の時価純資産で申告するのが安全と考えます。

また、オフショア法人に名目的な資本金(例えば1USD)を設定し、資金の大部分を実質株主の個人金融資産を担保とした借入金で調達するスキームがあります。この場合は、オフショア法人の借入金相当額が、個人のオフショア法人への貸付金として国外財産調書の申告対象になる可能性が高いのでご注意ください。

Aさんの場合、BVI法人名義で保有するシンガポールの金融資産の時価を、海外法人株式の評価額として申告することが安全と考えます。

(3)タックス・ヘイブン対策税制
BVIなどオフショア地域に設立した法人については、法人に実体がある場合は課税されないという例外がありますが、日本居住者である個人が法人を設立する場合、法人に実体があると認定されるケースはほとんどなく基本的にタックス・ヘイブン対策税制が適用されると考えられます。

なお、オフショア国で就労ビザを取得すればタックス・ヘイブン対策税制の適用を回避できると誤解されている方もおられますが、低税率以外に当該国で事業を行う経済合理性がなければ(あえて日本国外で行わなくてもよいのではないか?という質問に反論できなければ)この税制が適用されることになりますのでご注意ください。

タックス・ヘイブン対策税制とは、低税率国を利用した租税回避防止を目的として、日本の居住者が税負担率20%以下の国(※)に法人を設立した場合、その法人の利益のうち出資割合相当を日本居住者の所得とみなして雑所得として課税する制度です。

(※)平成27年度税制改正により税負担率20%未満の国が対象となり、タイや英国(2015年4月以降)など税負担率20%の国が対象から外れることになります。

Aさんの場合、法人税が無いBVIに100%出資の法人を保有されていますので、法人名義のシンガポール金融資産の運用益全額について日本で雑所得として申告する必要があります。これはノミニー制度の利用により、名目上は、AさんはBVI法人の株主ではありませんが、この税制の適用の有無は実質株主が誰かで判断されるためです。なお、雑所得は累進税率が適用されますので、通常は、金融資産の申告分離課税の税率(20.315%)よりも高い税率が適用されると考えられます。

(4)オフショア地域の情報収集の取り組み
昨年(平成26年)10月のBVIと日本との租税情報交換協定の発効により、日本の税務当局が実質株主の情報を把握する可能性が従来よりも高まることが予想されます。また、非営利の報道機関「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)が、オフショア法人設立代行会社の内部文書から実質株主の情報を入手して一般公開するなどの動きもあり、税務当局のオフショア地域の情報の入手手段が確実に広がっています。
実際、弊所にも昨年から、個人に対するオフショア法人の税務調査のご相談が寄せられております。

日本居住者は全世界所得課税のため、海外資産からの所得についても日本で申告が必要ですが、納税者に十分周知されているとはいえず、故意ではない申告漏れであれば、今のところ過去3年~5年間の修正申告で税務署は応じています。しかしながら、オフショア法人を利用した海外投資の申告漏れが税務調査などを通じて発覚した場合には、最大7年間を遡って重加算税の対象となることも十分考えられます。

世界的なオフショア・コンプライアンスの強化の取り組みから、従来型の国外への資産隠しを狙った税務対策は無駄となり、今後は税務当局に国外財産を全て把握されるという前提で合法的なタックス・プランニングを行う必要があると考えます。国外財産の申告漏れがある方は、この機会に自主的に申告することを検討されてはいかがでしょうか?

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当コラムは2015年1月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。

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