7月1日から税務署の新事務年度が始まり、お尋ねや税務調査の対応について、ご相談をいただくことが増えてきました。傾向は、前事務年度と基本的に変わらず、以下のような事案のご相談が多くなっています。
✓国外送金等調書に基づく国外送金等のお尋ね対応
国外送金等調書とは100万円超の海外送金の際に銀行から税務署に提出される書類です。通常、海外送金してから半年~1年後にお尋ねが税務署から届き、送金原資や使途、国外所得の有無などを確認されることになります。
✓RSUやストックオプションなどインセンティブの申告漏れの税務調査対応
平成24年(2012年)以降、インセンティブを出した法人に、そのインセンティブの内容を調書にまとめて税務署に報告することが義務付けられました。これに伴い、税務署としては調書に基づいて容易に申告漏れを把握できるため、本件に関する税務調査が増えています。
✓海外金融資産の申告漏れの税務調査対応
租税条約に基づく情報交換により、日本の税務署は海外金融機関にある日本人口座の情報を得ています。特に、オーストラリアについて、税務署は多くの日本人口座の情報を入手しているものと考えられ、本件に関する税務調査が増えています。nab、ANZ、CBA、Westpacなどに金融資産を保有されている場合は、確定申告及び国外財産調書の申告要否について確認されることをお勧めします。
昨年度からの変化点としては、共通報告基準(CRS)に基づく情報交換が、来年(2017年)9月から先行して始まる国があるため、海外金融機関において非居住者口座(日本人口座)に対してステータスの確認や、場合によっては口座閉鎖の連絡などがなされており、このような状況への対応に関するご相談が増えつつあります。
日本では再来年(2018年)9月から情報交換が始まることが予定されており、今年7月に国税庁からFAQが公表されました。本FAQは、日本の金融機関に口座を保有する非居住者の口座情報を、どのような手続き/スケジュールで情報交換するのか?に関するものです。実務については、十分見えないところがありますが、まずはFAQの個人に関連する内容を簡単にまとめてみたいと思います。詳細については、下記リンクより本文をご参照ください。
共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換
https://www.nta.go.jp/sonota/kokusai/crs/index.htm
非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度(FAQ)
平成28年7月_国税庁■制度の概要
第1回情報交換
・2018/4/30 2017年分の情報を金融機関から国税庁に提出
・2018/9/30 2017年分の情報を税務当局間で交換第2回以降
・毎年、4/30に前年分の情報を金融機関が国税庁に提出、9/30に税務当局間で交換■対象となる情報
口座保有者の氏名・住所、居住地国、納税者番号(外国)、口座残高、利子・配当等の年間受取総額等
→詳細は、FAQのQ34をご確認ください。■口座保有者の居住国特定のスケジュール
新規口座の場合(2017年1月以降)
・2017年1月以降、新規に口座開設の場合、居住国の届出(新規届出書)が必要既存口座の場合(2016年12月末に取引がある口座)
・個人:高額(契約資産残高1億円超) 金融機関が2017年末までに居住国を特定する義務を負う
・個人:低額(契約資産残高1億円以下) 金融機関が2018年末までに居住国を特定する義務を負う■口座保有者の居住国の特定手続き
個人:高額
・特定取引データベースの検索&契約関連書類の確認&担当者からのヒアリング個人:低額
・居住地住所テスト→特定取引DBの検索
※居住地住所テストとは、金融機関保存の記録に基づいて居住国を特定すること。記録の有効期間が経過した場合は、再度、確認書類の提示を求める。
※個人:高額の特定手続きを適用することも認められる。共通
・既存口座の口座保有者は、任意届出書の提出、及び、居住地国確認書類の提示により、自ら居住国を金融機関に届け出ることができる。
・居住国を日本で登録していても、金融機関が非居住者であることの情報を入手した場合、再確認されることがある。
・納税者番号の提供が禁止されている国の居住者に対しては、銀行は納税者番号の開示を要求できない。
・マイナンバーは金融機関からの国税庁への報告事項とはされていない。■その他
・税務署は金融機関に質問検査権がある。
・新規届出書の未提出、新規届出書等に偽りの記載をして提出した場合、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が規定されている。
→罰則は、初年度(2017年)から適用されます。
2018年9月30日の第1回情報交換にて、国税庁は日本居住者の海外口座情報を入手することになるものと思われます。情報交換の対象となる情報は、OECDにて共通報告基準(CRS)として定められているため、日本の国税庁が取得する情報は基本的に上記と同様と考えてよろしいかと思います。
米国を除く主要国は、共通報告基準(CRS)による情報交換を予定していますので、申告漏れの所得や海外資産がある場合は、確定申告及び国外財産調書の申告要否を確認されることをお勧めいたします。
情報交換の参加署名国については、下記リンクを参照ください。
SIGNATORIES OF THE MULTILATERAL COMPETENT AUTHORITY AGREEMENT ON AUTOMATIC EXCHANGE OF FINANCIAL ACCOUNT INFORMATION AND INTENDED FIRST INFORMATION EXCHANGE DATE ( Status as of 19 August 2016 )
http://www.oecd.org/ctp/exchange-of-tax-information/MCAA-Signatories.pdf
(2017年9月13日追記)
2018年9月にCRS(Common Reporting Standard:共通報告基準)による情報交換が予定されています。現状、税務署が居住者の国外財産の存在を把握する方法は、100万円超の海外送金の場合に銀行から提出される国外送金等調書が中心です。この情報交換が始まることより、税務署は海外送金がなくても国外財産の存在を把握することが可能となります。海外送金をしていない(する予定がない)ので、税務署には国外財産や国外所得を把握されることはない という考えはリスクが高いので対応について検討されることをおすすめいたします。
CRSの概要や注意点は、こちらをご覧ください。
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当コラムは2016年9月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。
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