相談者:Aさん(日本居住者・給与所得のみ)
昨年(2013年)5月に亡くなった父(日本居住者)の相続税申告が終わった後に、オーストラリアに父名義の預金1億円相当があることがわかりました。
預金からは毎年約200万円の利子が発生しています。父は不動産を保有していたので確定申告をしていましたが、この利子は申告していませんでした。なお、父の相続人は私だけです。
Q1. 相続税の修正申告は必要ですか?
相続税の修正申告が必要です。
被相続人(亡くなった方)が相続発生時に日本居住者である場合、相続人(相続する方)の居住地・国籍を問わず、相続人が被相続人の全世界財産を対象にして計算した相続税を申告納付する必要があります。
Aさんの場合、Aさんの父(日本居住者)のオーストラリア預金(国外財産)が相続税の対象となるため、現状は相続財産の申告漏れ(=相続税の過少申告)となっています。相続人はAさん1人ですので、Aさんが相続税の修正申告をする必要があります。
なお、オーストラリアには相続税がありませんので、オーストラリアで申告納付する必要はありません。
Q2. オーストラリアの銀行から送付されたStatementを確認すると利子に対して源泉徴収税(Withholding tax)が控除されているので日本で所得税の申告は必要ないですよね?
オーストラリアで源泉徴収されていても、日本で所得税の申告が必要です。
日本の銀行からの利子は、源泉徴収で課税関係が完結するため申告する必要はありません。しかしながら、外国の銀行からの利子は、源泉徴収されたとしても課税関係は完結せず改めて日本で申告をする必要があります。この際、外国と日本での二重課税を避けるために外国税額控制度が準備されています。
Aさんの場合、利子を申告して計算した日本の所得税額からオーストラリアで課された源泉徴収税額を差し引いて差額を納付することになります。
Q3. 所得税の修正申告は何年間遡る必要がありますか?
Aさんの父は確定申告をされていましたので、Aさんの父の2011年・2012年分の修正申告と2013年分の準確定申告の修正を行う必要があります。また、相続発生日以降の利子についてはAさんの所得となりますので、Aさんの2013年分の期限後申告も必要です。
日本居住者の場合は、国内所得だけでなく海外で発生した所得も所得税の対象となります。また、年の途中で相続が発生した場合、被相続人が年初から相続発生日までの期間の所得に対して所得税の納税義務があるときは、相続人が相続発生から4か月以内に「準確定申告」をして納税を行う必要があります。
Aさんの場合、Aさんの父はオーストラリアの預金利子の申告漏れ(=所得税の過少申告)の状態でお亡くなりになったことになります。そのため、Aさんは父に代わって2011年・2012年分の修正申告と、Aさんが行った2013年分の準確定申告の修正を行う必要があります。
また、相続発生日(2013年5月)にAさんがオーストラリアの預金を取得したことになりますので、相続発生日以降の預金利子についてはAさんの利子所得として申告が必要です。
Q4. 父の利子所得に対する所得税は相続税ではどのように取り扱われますか?
相続税の計算上、基本的に、債務控除として相続財産から差し引くことができます。
被相続人の税金のうち、死亡の際に確定しているものと死亡後に相続人が納付したものは、相続財産の価格から控除して相続税の課税価格を計算することができます。
Aさんの場合、2011年・2012年分の預金利子に対する所得税及び延滞税等は、本来、当初申告時にAさんの父が申告して納付すべきものなのでAさんの父が負担すべき債務として相続財産の価格から控除できます。また、2013年分の準確定申告に係る所得税も、Aさんの父が負担すべき債務に該当するため控除が可能です。ただし、2013年分の準確定申告に係る延滞税・過少申告加算税は、Aさんが正しく申告を行っていれば免れることができたものですので、Aさんの父が負担すべき債務に該当せず、相続財産の価格から控除することはできませんのでご注意ください。
Q5. 2014年分から国外財産調書の未提出にはペナルティが導入されるとのことですが、どのように対応すればよいですか?
2014年分だけでなく2013年分の国外財産調書を提出することをお勧めいたします。
国外財産調書制度は、2013年から導入された制度で、年末時点で5,000万円を超える国外財産を保有している日本居住者は提出の義務があります。
Aさんの場合、相続発生日(2013年5月)にオーストラリアの預金1億円相当を取得したことになりますので、本来2013年分の国外財産調書を提出する必要がありました。
2013年は国外財産調書の導入初年度であったため、未提出の場合でもペナルティは課されることはありません。しかしながら、Aさんの2013年分の期限後申告(相続発生日以降の利子所得の申告漏れ)と併せて国外財産調書を提出することで、通常は追加納税額の5%相当課される無申告加算税が免除されることになるため提出をお勧めいたします。
2014年分以降は、年末時点でオーストラリアの預金残高が5,000万円を超えていれば、国外財産調書の提出が必要です。
Aさんのケースは、相続人がAさん1人のため論点がシンプルですが、相続人が複数の場合は、未申告の相続財産を誰が相続するか、また、未申告の相続財産の所得をどのように申告するかなど論点が複雑となります。この場合は、個別の事情を具体的にお伺いする必要がありますので、お気軽にご相談頂ければと思います。
日本とオーストラリアの税務当局間での情報交換が活発になっているため、オーストラリアにある金融資産の申告漏れに対する税務調査対応についてご相談を受ける機会が増えております。税務署はオーストラリアの税務当局から入手した、確実に申告漏れを指摘できる証拠を持っていますので、「お尋ね」を経ずして税務調査が行われることが最近の傾向となっています。個人の税務調査は、基本的に自宅で行われることになりますので、精神的なご負担が大きいことか存じます。オーストラリアに金融資産を保有されていて、これまでその金融所得の申告をされていない場合は、税務調査が始まる前に自主的に申告することをお勧めいたします。
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当コラムは2014年11月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。