Q.米国駐在時に開設した米国金融機関の口座を、2006年に日本に帰国した後も米国上場株式などへの投資用口座として利用していました。
この度、住宅取得資金贈与の非課税制度を利用して、娘夫婦の住宅購入資金を援助するため、米国上場株式を売却して日本に送金することを検討しています。2013年末の海外資産(株式・預金)は約3,000万円で、毎年約100万円の配当が米国口座に振り込まれています。今回、日本への送金額は、約1,000万円を予定しています。
帰国後は、給与所得の年末調整だけで、米国上場株式の配当は確定申告をしていませんでした。日本に送金するあたり、税金上、どのようなことに気をつける必要がありますか?
Point:
所得の申告漏れがある海外資産を日本へ送金する場合、海外送金と併せて過去の所得の申告をすることが、金銭的にも心理的にもご負担が少ない対応です。
A.
1.「お尋ね」への対応
海外から日本へ100万円を超える送金をする場合、送金先の金融機関から税務署に支払調書が提出され、その後、税務署から「国外送金等に係るお尋ね」が届く可能性があります。
「お尋ね」は、法律上の根拠が無いため、回答することはあくまで納税者の任意(自由)です。しかしながら、回答がない場合や、税務署が把握している事実と回答内容に食い違いがある場合は、税務調査に発展する可能性があるので注意が必要です。個人に対する税務調査は、平日の日中にご自宅で行わるのが通常ですので、時間的にも心理的にもご負担が多いものと思います。
そのため、税務署とのやり取りで時間を取られたり、税務調査に発展することがないように、上手に回答するのが「お尋ね」への対応のポイントと言えます。
2.所得の申告漏れへの対応
日本居住者の場合、国内所得だけでなく海外での所得にも日本で課税がされるため、基本的に確定申告が必要となります。
これまで日本で確定申告していない海外所得がある場合に、その海外所得を生み出す海外資産を換金して日本へ送金するときは、「お尋ね」が届くか、又は、税務調査が行わる可能性があります。
ここで、過去の所得の申告漏れについて、どのタイミングで申告するかによって、納税者のご負担が変わります。ご質問のケースについて、①自主的に申告する場合②税務調査が始まってから申告する場合③税務調査の結果、重加算税が課される場合で、それぞれ税負担額を試算してみます。
>>米国株式の税金申告については、こちらをご覧ください。
①自主的に申告する場合
帰国後、確定申告をされていないので、2009年~2013年の5年分が申告の対象となります。
・所得税/住民税(10%):100,000円×5年分=500,000円
・延滞税/金(14.6%):14,600円×5年分=73,000円
・無申告加算税/金(5%):5,000円×5年分=25,000円納税額:598,000円
②税務調査が始まってから申告する場合
自主的に申告した方を優遇する趣旨から、税務調査が始まってから申告する場合は、
無申告加算税が10%~15% 重くなります。・所得税/住民税(10%):100,000円×5年分=500,000円
・延滞税/金(14.6%):14,600円×5年分=73,000円
・無申告加算税/金(15%):15,000円×5年分=75,000円納税額:648,000円
さらに、税務調査に対応することで、時間的・心理的なご負担がかかることになります。また、税務調査対応として税理士を選任する場合、通常10万円以上の費用が発生することになります。
③税務調査の結果、重加算税が課される場合
税務調査の結果、仮装隠蔽している事実があったと認定された場合、最大7年間遡って申告することが必要です。さらに、追加納税額の40%に相当する重加算税を納付する必要があります。
・所得税/住民税(10%):100,000円×5年分+200,000円×2年分=900,000円
・延滞税/金(14.6%):14,600円×5年分+29,200円×2年分=131,400円
・重加算税/金(40%):40,000円×5年分+80,000円×2年分=360,000円納税額:1,391,400円
ここで「お尋ね」が届いてから申告した場合、法律上は、①自主的に申告する場合のご負担となるのですが、税務署の担当官によっては、②税務調査が始まってから申告する場合 と同様の取扱いを求めてくる可能性がありますので注意が必要です。
最近では「お尋ね」でのやり取りを経ないで、最初から税務調査が始まるケースもありますので、「お尋ね」が届いてから過去の申告漏れに対応すればよいというスタンスはリスクが高いと考えられます。
3.まとめ
海外から日本へまとまった資金を送金する場合、送金後に税務署から「お尋ね」が届くか、税務調査が始まることを想定して、合理的な税金対応をすることをお勧めします。
過去に海外所得の申告漏れがある場合、「お尋ね」が届いてから申告したとしても、本来、税務調査前の自主的な申告として不利な取扱いを受けることはありません。しかしながら、税務署の担当官によっては「お尋ね」を税務調査の開始として取り扱い、本来払う必要のないペナルティが課される可能性がありますのでご注意ください。
また、「お尋ね」でのやり取りを経ないで税務調査が始まる場合は、無申告加算税などのペナルティが重くなるだけでなく、税務調査対応に時間的・心理的なご負担がかかることになります。
以上より、所得の申告漏れがある海外資産を日本へ送金する場合は、海外送金と併せて所得の申告漏れを自主的に申告することが、金銭的にも心理的にもご負担が少ない合理的な方法と考えられます。
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当コラムは2014年8月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。