海外資産の税務調査の連絡があった場合の対応方針

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海外口座情報が効果発揮、相続税申告漏れを指摘も

国税庁は2日までに、CRSで得られた情報を端緒として、親族から遺産を相続した女性の約4千万円の相続税申告漏れを指摘したことを初めて明らかにした。女性は相続に際して、親族に海外資産があることを知らないまま相続税を申告。東京国税局はCRSで得た海外の口座情報をもとに税務調査を実施した。親族が海外に預金と不動産を持っていることが分かり、同国税局は申告漏れを指摘し、約2千万円を追徴課税した。

関係者によると、他にもCRS情報を端緒とした複数の税務調査に着手しているとみられる。ある国税局幹部は「現在は調査先を選定している段階。本格的な調査は今年の7月以降になるだろう」と話した。

出所:日本経済新聞(2019/7/2)を抜粋

7月1日の税務署の新事務年度開始に伴い、税務調査が本格的に始まります。
日本経済新聞の記事のとおり、2018年9月末実施の初回のCRSで得られた情報を端緒とした税務調査が既に実施されました。

海外資産の税務調査は、税務署がどのような手段で、どの程度の海外資産の情報を既に入手しているかを踏まえて、対応方針を検討する必要があります。税務署が海外資産に関する情報を収集する主な手段は下記のとおりです。

目次

海外資産の情報収集手段

①国外送金等調書

100万円超の日本と海外との送受金がある場合に、銀行から税務署に提出される書類です。

本調書には、送金元と着金元の銀行名・支店名・口座名義人、送金日、送金額、送金目的が記載されていますので、税務署は納税者の海外口座の存在を把握することができます。

本調書には、海外口座の残高や海外口座で発生した所得の情報は記載されていないので、税務調査にて過去分のBank Statementの提出が要請されることになります。

国外送金等調書を端緒とした税務調査事例は、こちらをご覧ください。

②自動的情報交換

利子・配当・キャピタルゲインなどの非居住者への支払情報を、支払国の税務当局から受領者の居住国の税務当局へ送付する仕組みです。本制度で、外国から提供される情報の大半は米国のものと言われています。

本制度により提供された情報にて、税務署は日本口座に送金しない取引(例えば、米国の証券口座で発生した配当やキャピタルゲインを、日本口座に送金せず、米国口座に入金したままにする など)を把握することができます。また、米国はCRSに不参加のため、納税者の米国口座の存在を把握する情報源となります。

本制度により提供された情報には、口座残高の情報は含まれていないため、過去分のBank Statementの提出が要請されることになります。

自動的情報交換を端緒とした税務調査事例は、こちらをご覧ください。

③CRSによる情報交換

非居住者の前年末の口座残高、前年中の利子・配当・キャピタルゲインなどの支払情報を、口座所有者の居住国へ毎年9月末に提供する仕組みです。日本は2018年9月末に初回の情報交換を行ないました。

税務署は、本制度により提供された情報から、納税者の海外口座残高と海外口座で発生した所得の情報を直接把握することができます。

ただし、税務署は、日本との間でCRSによる情報交換を実施していない国(米国など)に所在する口座情報は入手することができません。また、不動産の情報はCRSによる情報交換の対象となっていません。

CRSの最新動向は、こちらをご覧ください。

④国外財産調書

年末時点の国外財産の残高が5,000万円超の場合に、納税者自身が作成して提出する必要がある書類です。
国外財産調書が提出された場合、税務署は、本調書に記載された海外資産が収益を産む資産かどうか、(収益が発生する資産と考えられる場合)海外所得の申告がされているか、に関心を持って確認を行ないます。そして、海外資産を保有している事実の申告はあるものの、海外所得の申告がない場合は、税務調査が実施される可能性が高いです。

国外財産調書を端緒とした税務調査事例は、こちらをご覧ください。

⑤Web情報

米国など先進国に所在する不動産の登記情報は容易にWebで入手できます。

例えば、日本人の投資が多いハワイ不動産については、下記のサイトより、所有者、売買履歴、評価額などを確認することができます。

CITY AND COUNTY OF HONOLULU DEPARTMENT OF BUDGET AND FISCAL SERVICES
REAL PROPERTY ASSESSMENT DIVISION
http://www.qpublic.net/hi/honolulu/search.html

不動産の名義からは贈与の有無、固定資産税評価額からは相続財産の評価の妥当性 について指摘が入る可能性があります。

⑥要請に基づく情報交換

税務調査の開始後、納税者がBank Statementや海外法人の決算書などを提出しない(できない)場合、税務署は対象国の税務当局に租税条約等に基づく情報交換要請を行ない、調査および情報の提供を依頼します。

相手国によって要請から情報入手までの期間が異なり、入手まで1年超となるケースもあります。そのため、通常は、一旦、税務調査を終了し、税務署が情報を入手次第、再調査が実施される流れとなります。

税務調査にて要請に基づく情報交換が活用された事例は、こちらをご覧ください。

海外資産の税務調査の流れ

税務署は、主に①から⑤により入手した情報に基づいて、税務調査の対象者を選定し、申告漏れ額を想定したうえで、税務調査に着手することになります。

また、海外資産の税務調査の場合、通常の税務調査と同様に、税務署は、税務調査前に調査対象者(及び家族名義)の日本国内の取引金融機関の口座履歴を約7年間遡って確認しています。

税務調査において、入手できない海外資産の情報や疑義がある論点については、⑥によって相手国に個別に調査および情報の提供を依頼します。

海外資産の税務調査は、通常の税務調査と異なる論点(例えば、Joint accountの実質的持分、Trustの利益確定時点、タックス・ヘイヴン税制の適用、居住者/非居住者認定 など)がありますので、国際税務に詳しい税理士にご相談することをおすすめいたします。

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当コラムは2019年7月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。

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