相談者:Aさん(女性・日本国籍)
私は7年前に夫(外国籍)と海外移住をしました。この度、夫が亡くなり、子供がいないので、財産は私が全て相続することになりました。相続する財産は現在居住している外国不動産と、外国金融機関にある預金・上場株式、夫が日本居住の際に開設した日本の預金 です。日本の相続税制は頻繁に改正されていると聞きますが、日本で相続税の申告は必要でしょうか?
また、現在居住の外国不動産を売却して、日本に戻りたいと考えています。日本帰国前後の留意点があれば教えてください。
目次
1.日本での相続税の申告要否
Aさんは日本国籍で、海外移住してから10年以内に相続が発生していますので、ご主人から相続した全財産について、日本で相続税の申告納税が必要です。併せて、現在の居住国で相続税の申告納税が必要となる可能性がありますので、現地の専門家にご確認ください。なお、現在の居住国で納付した相続税相当額は、基本的に、日本の相続税申告にて外国税額控除を適用することができます。
2.外国居住用不動産の評価・特例
日本の相続税申告において、外国不動産は相続時点の時価で評価する必要があります。国内不動産のように路線価方式や倍率方式は使えません。
また、小規模宅地等の減額特例は、居住用不動産が外国不動産であったとしても、利用可能ですので、Aさんは外国不動産の土地評価額について80%減額を受けることができます。なお、配偶者が相続取得する場合、取得した不動産への居住要件などは要件となっていません。
3.日本帰国前後の留意点
Aさんが日本に帰国する前は、Aさんは日本非居住者ですので、海外で発生した所得は現地国でのみ申告納税です。日本で申告納税する必要はありません。よって、日本帰国前の外国不動産の譲渡は現地国の税制・税率 の適用を受けます。
これに対して、Aさんが日本に帰国した後は、Aさんは日本居住者になりますので、全世界で発生する所得について日本で申告納税する必要があります。よって、日本帰国後の譲渡は日本の税制・税率 の適用を受けます。
その際、現地国で納付した税金は、日本の申告で外国税額控除を適用し、日本の税金から控除することができます。
また、外国の居住用不動産を譲渡した場合でも、要件を満たせば、日本の申告で譲渡所得から3,000万円特別控除を適用することが可能です。
以上のとおり、外国不動産や上場株式を譲渡するタイミングが、日本帰国前か日本帰国後かによって、申告納税手続きや税負担が異なりますので、有利不利含めてご検討ください。
4.日本帰国年の留意点
日本帰国年は、1月1日から帰国日までは非居住者として、帰国日の翌日から12月31日までは居住者として、翌年3月15日までに確定申告を行なう必要があります。国外所得のうち非居住者期間に発生したものは日本で申告納税が不要、居住者期間に発生したものは日本で申告納税が必要です。居住者or非居住者によって、所得課税の範囲が大きく異なりますので、パスポートの写しや戸籍附票の写しなどで、日本居住開始日を明確にする必要があります。
また、帰国年の12月31日時点で国外財産の合計額が5,000万円超の場合は、国外財産調書(国外財産の内容、所在、評価額などを記載した調書)も翌年3月15日までに提出する必要がありますのでご留意ください。
5.税務署による海外資産&所得の捕捉
Aさんが日本帰国後、現在の居住国から日本へ、生活資金などの目的で海外送金を行なうこともあるかと思います。
1回の海外送金が100万円超の場合は、着金元の日本の銀行から税務署に海外送金の内容が連絡されます。税務署は銀行から提供された情報に基づいて、Aさんの申告状況を確認し、申告漏れなどがあると想定される場合は、「国外送金等のお尋ね」の送付や税務調査を実施することになります。
また、相続した外国金融口座の所在国が、CRS(共通報告基準)の情報交換に参加している場合に、口座所有者であるAさんの税務上居住地を日本で登録しているときは、毎年9月末に前年の利子・配当・キャピタルゲインと前年末残高が国税庁に提供されることになります。そして、税務署はこの情報に基づいてAさんの申告が適正かどうかを確認し、必要に応じて税務調査などを実施することになります。
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当コラムは2019年6月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。