国外財産課税への対策をズバリ解説!

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国税庁より、「平成 26 年分の国外財産調書の提出状況について(平成27年10月20日)」として、2014年分の国外財産調書の取りまとめ結果が公表されました。2014年分の提出件数は8,184件、財産額は3兆1,150億円とのことです。

2014年分から未提出や虚偽記載への罰則が導入されたこともあり、2013年分の提出件数5,539件、財産総額約2兆5142億円からは増加しておりますが、2014年分も様子見のスタンスで提出されなかった方が多くいらっしゃるものと考えられます。

今年7月に国税庁長官に就任された中原広氏は、次の方針を示しており、今後、国外財産に対する国税庁の姿勢は強まっていくものと考えられます。

昨年から富裕層を対象に提出が義務化された「国外財産調書制度」、来年1月に施行される「財産債務調書制度」を例に挙げ、「あらゆる資料情報を活用し、富裕層などを的確に把握し適正課税に努めたい」

出所:日本経済新聞(2015年7月23日)より一部抜粋

改めて、国外財産に関する最近の動向についてQ&Aで解説させていただきます。

目次

■個人の国外財産課税をめぐる最新動向は?

Q. 税制改正で国外財産調書やいわゆる出国税などが導入されましたが、国税庁の狙いは?

富裕層への課税強化、特に、無申告の海外資産が国税庁の重点調査分野の1つとなっています。

Q. 現在の国外財産課税に関する国税庁の取り組みは?

支払調書や租税条約による情報交換などから得た情報に基づいて、国外財産に関する税務調査を進めています。特に、外資系企業のRSUやESPPなどのインセンティブ、オーストラリアの銀行口座の運用益などが重点的な調査対象となっているようです。

また、100万円超の海外送金情報にもとづいて、「国外送金等のお尋ね」を送付し、国外所得の申告漏れや贈与の事実などの情報収集を進めています。

国外財産調書制度が導入されてからは、これらに加えて、次の文書の送付がなされています。

✓「国外財産調書の提出について」
国外財産調書の未提出者に対して送付される文書です。行政指導のため法的拘束力はなく回答義務はありませんが、無回答の場合には将来税務調査に発展する可能性があるものと考えます。

✓「国外財産調書の見直し・確認について」
国外財産調書の提出者に対して内容の確認を求めるために送付される文書です。調書の内容に記載漏れや誤りがあると思われる納税者に文書が送付されました(特に、海外財産の所在を正確に書くよう指導)。納税者に自主的な調書の修正を促し、修正した内容に虚偽記載などが判明した場合はペナルティが適用される可能性があるものと考えます。

これら文書は、次の3つの目的で送付されているものと考えます。

① 国外財産調書制度を徹底周知するため。本制度を知らなかったとは言わせず、不提出や虚偽記載があれば容赦なくペナルティを課すことができる状況を作るため。
② 調書の不提出や虚偽記載を裏付ける証拠を入手し、税務調査の材料とするため。
③ 5,000万円以下の調書提出不要者からも情報収集して、所得税・相続税の申告漏れを捕捉するため。

Q. 今後の国外財産捕捉の取り組みのポイントは?

2018年から国内では預貯金へのマイナンバーの付番が任意で始まり(いずれ義務化されるものと考えられます)、また、OECD各国で海外口座情報の交換が始まるなど、国税庁が容易に国外所得・財産の申告漏れを把握できる体制の整備が進んでいくものと考えられます。

>>マイナンバーの海外口座への影響は、こちらをご覧ください。

■国外財産調書作成における実務上の留意点は?

Q. 共同名義口座(ジョイント・アカウント)の評価額は?

名義預金と考えられるので、口座名義人ではなく、実質的に資金負担している者の財産として報告します。この場合、利子等の所得も資金負担割合で申告が必要です。

Q. 共有不動産(ジョイント・テナンシーなど)の評価額は?

共有持分が定められている場合にはその割合で、共有持分割合が定められていない場合や明らかでない場合には、共有者の持分は均等であるとみなして按分して報告します。

Q. 共有不動産は、共同名義口座のように実質的資金負担者の割合で評価可能か?

難しいと思います。まず入口で贈与税課税を受けることになります(東京高裁平成19年10月10日)。ハワイのコンドミニアムは日本人夫婦の共有不動産が多いですが、贈与税を支払うか、名義を単独に変更するかのどちらかにするよう国税庁から指導が行われています。

Q. ストック・オプションの評価額は?

ストック・オプションのうち行使可能なものが国外財産調書の報告対象で、評価額は「(株価-権利行使価額)×権利行使により取得可能な株式数」で評価します。よって、付与されたストック・オプションのうち、年末時点で行使できないものは報告する必要ありません。

なお、ストック・オプションは権利行使期間の到来の有無にかかわらず、「有価証券」に該当しますので、付与されて権利行使期間の到来していないストック・オプションについても出国税の要件を満たしている場合は、出国税課税を受けるものと考えられますのでご注意ください。

Q. 外資系企業では、RSUやESPPと呼ばれるストック・オプションに似たインセンティブ・プランがあるとのことですが、これらの調書及び申告上の取扱いは?

① RSU (Restricted Stock Unit)
現物株の支給で、付与(Grant)後、一定期間在籍後に売却可能(Vest)となり、Vest時に時価相当を給与所得として申告する必要があります。国外財産調書では年末時点の売却可能(Vest)株式数の時価で評価します。

② ESPP( Employee Stock Purchase Plan)
通常より割引で自社株を購入できる社員持ち株制度です。割引購入時に割引分を給与所得として申告する必要があります。国外財産調書では取得株式数の時価で評価します。なお、取得するための積立金が海外金融機関にある場合は、国外財産調書の報告対象です。

Q. 株主名義人(ノミニー)制度を使ったオフショア法人への投資は報告対象ですか?

株主名義人(ノミニー)ではなく、実質的な所有者(オーナー)の財産として、報告する必要があります。ノミニー(Nominee)制度とは、真の株主の情報を守るため、実質の株主が表面上はわからないように名目上の株主を置くことをいいます。BVIや香港などでは合法的な制度ですので、ノミニー制度の利用については問題ありません。

ノミニー制度を利用すると名目上はオフショア法人の株主ではありませんが、実質的には株主であるためオフショア法人の株式を国外財産として報告する必要があります。

■国外財産からの所得に申告漏れがある場合の対応は?

Q. 平成25年分、平成26年分の国外財産調書を出してない場合(国外所得も申告してない)はどのような対応をとればよいですか?

個人の国外財産課税をめぐる動向は上記のQ&Aのとおりです。そのため、国外財産が国税庁に把握されるのは時間の問題であると想定して今後の対応を検討されるのが安全かと思います。

弊所としては自主的な修正(期限後)申告をお勧めいたします。これは、自主的に申告することにより、加算税の減免措置を受けられることはもちろん、税務調査が来るかもしれない という心理的なご負担から解放される点が大きいと思います。

自主的に申告する場合、国外所得の申告漏れについて、遡る年数は次のとおりです。

・これまで確定申告している場合は、平成23年分以降の修正申告(4年分)
・これまで確定申告していない場合は、平成22年分以降の期限後申告(5年分)

また、この場合は、過去分の国外財産調書も修正(期限後)申告と併せて提出するのがよろしいかと思います。これは、国外財産調書の提出が期限後であったとしても、税務調査開始前であれば期限内提出として取り扱われるためです。

なお、自主的な申告の場合は、過少申告加算税は免除、無申告加算税は5%に軽減されます。これに対して、申告せずに税務調査となった場合は、過少申告加算税10-15%、無申告加算税15-20%が課されます。さらに、国外財産調書が不提出のため、それぞれ5%加重されることになります。

事実の全部又は一部に隠ぺい又は仮装がある場合は、重加算税35-40%が、最大7年間遡及して課されることになります。この場合、延滞税の計算対象期間の上限を1年とする措置も受けることができません。

Q. 「国外財産調書の提出について」、「国外財産調書の見直し・確認について」、「国外送金等のお尋ね」を受領した後の修正(期限後)申告は、自主的な申告として認められますか?

これら文書は行政指導として送付されているもので、税務調査には該当しないものと考えられます。したがって、これらの文書への回答と併せて修正(期限後)申告と国外財産調書を提出すれば、自主的な申告として取り扱われて、加算税の免除・軽減が受けられるものと考えます。

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当コラムは2015年10月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。

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