非居住者の帰国後の確定申告の注意点とは?

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事例:Aさん 国際結婚をして20年以上米国に住んでいます。日本国籍で米国永住権(グリーンカード)を取得しています。一昨年、夫(米国籍)が亡くなり、今年になってようやく相続手続きが終わりました。2人の子供はすでに独立しているので、将来のことを考えて医療制度が充実している日本に今年の9月に戻ります。

夫から相続した財産は預金や株式などの金融資産が約1億円相当あり、全て米国金融機関で管理しています。この金融資産を元手に日本でマンションを購入することを検討しています。現在の主な収入は、米国の公的年金からの収入と相続した株式からの配当収入です。

Q1. 米国永住権があると毎年Tax Returnを行う必要があるので放棄したいと考えていますが、その際に注意することはありますか?

米国の出国税(HEART Act)に留意する必要があります。米国籍や米国永住権を放棄する場合、以下の①~③のいずれかに該当するときは、出国税として放棄時点で保有財産を売却したものとみなされて、その売却益に課税がなされることになります。

①放棄日時点の全世界の純資産額が2百万ドルを超えている ②放棄前5年間の連邦所得税の平均所得税額が法定額を超えている (2013年の場合155,000ドル) ③放棄日前5年間の連邦所得税の申告納税義務を果たしていることについて宣誓できない

ポイントは、これらの条件に該当しない場合でも、IRS(米国歳入庁)に該当しないことを証拠資料を添付して報告する義務があることです。

したがって、Aさんの場合、①~③の条件に該当しない場合でも、米国金融機関から保有財産のStatementを取得するなどして条件に該当しないことをIRSに報告する必要があります。

Q2. 日本に年の途中で帰国した場合、日本の確定申告は必要ですか?また、注意することはありますか?

帰国して日本居住者となった後は、基本的に米国金融資産からの配当・利子を含めた全世界の所得について確定申告が必要です。

但し、年金収入が400万円以下で、米国金融資産からの配当・利子が20万円以下の場合は確定申告の必要はありません。なお、平成27年以降は、外国の公的年金や保険からの年金収入が400万円以下であっても、確定申告不要制度の利用ができなくなりますのご注意ください。

また、年末時点の国外財産が5,000万円を超える場合は、国外財産調書の提出が必要です。

Q3. 今年の1月に米国で持病の手術を行い多額の医療費がかかりました。日本での確定申告で医療費控除を受けることはできますか?

医療費控除を受けることはできません。医療費控除は日本居住者である期間に支払った医療費のみが対象となるため、今年の1月に米国在住で日本非居住者であったAさんは医療費控除を受けることができません。

なお、日本居住者となった9月以降であれば、海外で支払った医療費、例えば米国に一時渡航して治療を受けた際の費用などは日本の確定申告の際に医療費控除を受けることができます。

Q4. 今年の11月に米国に住む子供(大学生)が手術をする予定で、手術費用を送金するつもりです。この手術費用は、日本での確定申告の際に医療費控除を受けることはできますか?

医療費控除を受けることができます。医療費控除の対象にできる医療費の支払は、本人だけでなく、生計を一にする親族の医療費も対象とされているからです。

Aさんの場合、お子様(大学生)に仕送りをするなど同一生計の実態があれば、Aさんの日本の確定申告の際に、お子様が米国で支払った医療費についても控除の対象とすることが可能です。但し、この場合であっても保険金等でカバーされた分は対象となりませんのでご注意ください。

Q5. 米国での相続財産を日本に送金する際に注意することはありますか?

税務署から「国外送金等に関するお尋ね」が届く可能性が高いので、説明資料を事前に準備しておくことをお勧めいたします。

100万円を超える海外送金の場合、金融機関から税務署に支払調書が提出され、税務署はこの支払調書に基づいて「国外送金等に関するお尋ね」を金融機関の登録住所あてに送付します。この「お尋ね」が届いた場合、送金資金の原資や使途、海外での所得の有無などを回答する必要があります。

Aさんの場合、送金資金の原資は御主人から相続した財産ですので、日本の相続税の課税対象であったかどうかを説明する必要があります。仮に、相続時にAさんと御主人が米国居住者で、相続時から遡って5年以内に日本に居住したことがない場合は、米国金融資産を相続したとしても日本の相続税が課税されることはありません。この場合、相続発生日、米国居住期間、相続財産についてそれぞれ資料を添付して、日本の贈与税の対象外である旨を回答する必要がありますので、これら資料を帰国される前に準備されることをお勧めいたします。

>>海外居住者の贈与税対策は、こちらをご覧ください。

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当コラムは2014年11月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。

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