出国税(Exit Tax)導入の狙いをズバリ解説!

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富裕層の税逃れ防げ 海外移住者の株含み益に課税
政府・与党、15年度実施へ検討

政府・与党は21日、富裕層の税逃れ対策を強化する検討に入った。1億円を超える金融資産を持つ富裕層が海外に移住する場合は株式などの含み益に所得税を課税する。仏独などがすでに導入している仕組みで、日本では年間100人程度が対象になる見通しだ。2015年度からの実施を目指す。

出所:日本経済新聞(平成25年10月22日)より一部抜粋

今年から国外財産調書制度が導入され、来年以降は国外財産調書の未提出の場合には1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科され、そして日本経済新聞の記事にあるように、次は出国税(Exit tax)の導入と富裕層を狙い撃ちにした課税の取り組みが着々と進んでいます。

今回は、現行の税制における日本非居住者(例:シンガポール在住)の株式譲渡益の取扱いと、出国税(Exit tax)導入の狙いについて解説いたします。

1.日本の所得税
(1)原則
日本非居住者で、日本に事業を行う拠点(恒久的施設:PEといいます)がない方が、株式を売却した場合の譲渡益については、原則として日本の所得税は課税されません。これは、株式譲渡益は、株式を譲渡した人が住む国で課税するのが世界の原則的な取扱いとなっているからです。
なお、日本の相続税・贈与税は、株式をもらった人が日本非居住者であっても、あげる人が日本居住者の場合は課税されることになり、所得税とは異なる取扱いとなっていますのでご注意ください。

(2)例外
日本居住者との課税の不公平感を失くすため、日本非居住者の株式譲渡益に対して例外的に日本の所得税を課税することがあります。代表的なのは、次の2つのケースです。

① 会社の総資産の50%以上が日本不動産である法人の株式を2%(上場会社の場合は5%)超売却した場合
実質的に不動産の譲渡と同じと考えられるため、日本非居住者の国内不動産の譲渡所得と同様に、日本の所得税が課税されます。なお、保有割合が50%以上か否かの判定は、所有者が個人の場合、譲渡の前年の12月31日時点で行います。

② 売却年以前3年以内に25%以上の株式を保有しているオーナーやその関係者が、1年間に5%以上の株式を売却した場合
この規定により、例えば、25%以上の株式を保有する新興企業のオーナーが、香港やシンガポールに移住して非居住者となった後に株式を売却しても日本の所得税が課税されることになります。

参考:国税庁タックスアンサー No.1936 海外転勤中に株式を譲渡した場合

これらのケースに該当する場合、株式の譲渡益に対して15.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%)の課税がされることになります。なお、住民税は課税されないため、住民税相当額(株式譲渡益の5%)は海外移住による節税効果があるといえます。

2.租税条約
日本は多くの国と租税条約を締結しており、所得税と租税条約が同じ取引について別の取扱いを定めている場合、租税条約を優先することになっています。したがって、1(2)の日本非居住者の株式譲渡益に対して例外的に日本で課税するケースに該当しても、居住国と日本が締結する租税条約によっては日本で課税されないことがあります。以下、シンガポールに海外移住した場合の課税関係を検討します。

<シンガポール居住の場合>
日本とシンガポールの租税条約では、株式の譲渡益は、原則として譲渡した人の住んでいる国だけで課税されます。ここで、シンガポールの税制では、株式の譲渡益に課税がされないため、日本とシンガポールの両国で所得税を納付する必要がないのが原則的な取扱いとなります。

しかしながら、次の2つのケースについては、租税条約で例外的に日本で課税することとしています。

① 株式(上場株式以外)発行法人の主たる資産が日本の不動産である場合
② 譲渡年において25%以上の株式をオーナーやその関係者が保有し、そのうち5%以上を譲渡

したがって、これらケースに該当する場合は、たとえキャピタル・ゲイン課税がないシンガポールに居住していたとしても、日本で所得税を納付する必要があります。

3.出国税(Exit Tax)導入の狙い
上述のとおり、同族会社や新興企業のオーナーの持株売却に伴う譲渡益は、現行の税制で一定程度、日本で課税がなされているといえます。しかしながら、上場株式などで資産運用をしている投資家は、個別銘柄を25%以上保有することは一般的ではないので、これらの方が日本から出国して日本非居住者となった後の株式譲渡益には、日本で課税がされません。

したがって、今回の出国税(Exit tax)導入の狙いは、主として、上場株式などで資産運用している投資家の海外移住による税逃れの防止と考えられます。また、オーナー株主に対しても、海外移住時の日本での株式譲渡益課税を逃れるために行う、持株比率を下げるなどのタックス・プランニングの再考を迫ることになるといえます。

>>日本出国に伴う所得税・住民税・国外財産調書の手続きは、こちらをご覧ください。

>>非居住者の株式譲渡やストックオプション行使に対する課税は、こちらをご覧ください。

(2014年12月19日追記)
日本経済新聞によると、出国税(Exit Tax)の導入は2015年7月になるとのことです。

シンガポール・香港・マレーシアは、日本から地理的に近いこともあってキャピタル・ゲイン非課税国のなかでも人気がある移住国です。香港に移住した場合の現行の課税関係について、租税条約を踏まえて補足解説いたします。

<香港居住の場合>
日本と香港の租税条約では、株式の譲渡益は、原則として譲渡した人の住んでいる国だけで課税されます。ここで、香港の税制では、株式の譲渡益に課税がされないため、日本と香港の両国で所得税を納付する必要がないのが原則的な取扱いとなります。
例外として①日本香港の両国でキャピタル・ゲイン非課税とすることを香港移住の主たる目的とする場合、②日本の不動産が資産の50%以上を占める会社の株式を譲渡した場合は、譲渡益に対して日本で課税されます。

香港居住の場合は、シンガポール居住の場合と異なり、同族会社や新興企業のオーナーの持株売却に伴う譲渡益に対して、香港でも日本でも課税されないことが特徴です。そのため、出国税(Exit Tax)導入の狙いの一つといえます。

(2015年1月11日追記)
平成27年度税制改正により、2015年7月1日以後の出国や贈与などに対して出国税が導入されることになりました。出国税導入の影響はこちらをご覧ください。

(2015年4月5日追記)
出国税課税の対象となる行為は、国外転出(いわゆる出国)だけではなく、非居住者への有価証券等の贈与も含まれます。非居住者への有価証券等の贈与を検討されている方は、2015年6月30日までに贈与を実行することが出国税課税が無く有利です。詳細はこちらをご覧ください。

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当コラムは2014年10月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。

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